今月から年明けにかけて、農業経営セミナーの講師を延べ6回務めさせていただく。開業当時から農業の経営支援を専門領域と定めたが、おかげさまで、さまざまなご縁を通して多くの経営診断・経営相談に関わる機会をいただいた。そこで蓄積した知見をセミナーの中でお伝えする場面も増えてきている。

 

■農業の何が問題か?

一般論として、農業の問題は「他の産業に比べて儲からない」とされる点にある。それでは、「なぜ農業が儲からないのか?」ということになるが、その問いに対する回答は、「自農場での生産活動を事業として捉えず、経営できていないこと」に集約されるであろう。つまり、他産業(製造業、商業・サービス業)でごく当たり前に行われる事業活動では、

❶販売が見込める顧客の探索と確保

❷見込客に向けた商品の企画・開発および生産(あるいは仕入)

❸販売価格の設定

❹販売経路の開発・構築(あるいは店舗の開発)

❺商品の流通、代金の回収、アフターフォロー 等々

が行われているが 従来、農業ではこれらの活動が欠落している場合が多かった。農業者が関与している活動は、単なる「生産」のみであり、したがって事業活動によって生み出される付加価値はかなり限定されたものに留まってきた。

 

■農業における経営戦略の意義

他産業と同様に、農業においても「経営する」という発想は不可欠であり、事業体として存続するために、やはり経営戦略が必要なのである。農業者が経営戦略を立て、実行する目的は、

・「儲からない農業」から脱却し、自農場の収益性を高めて経営基盤を安定化させること

・所得水準を引き上げて、農業を魅力ある事業、産業に変革し、人材を確保すること

であり、その結果として

・持続可能な経営体になること

であり、これが経営戦略を立案する原点である。

「儲からない農業」からの脱却に向けては、さまざまな方策が考えられるが、しばしば取り上げられるのが、「6次産業化」(1次×2次×3次産業の組み合わせ)による高付加価値化である。しかし、すべての農業者が6次産業化に取り組むことはムリで、存続の道は他にもある。

大切なのは、自農場の実情を理解し、「できることを考え、そしてやる」ということ。そのためには、自ら(=内部事情)を知り、回り(=外部環境)を知ることがスタートラインになる。