先月26日の日経朝刊に「『無目標中計』ジレンマ」という見出しで、利益目標を明示しない中期計画を公表したソニーの株価が下落しているとの記事があった。

経営計画を“教科書通り”につくる場合、新技術や新製品開発、新分野進出などの定性目標ともに、売上や利益などの定量目標(あるいは数値目標)を盛り込むのがごく一般的だ。実務においても、KPI(主要業績評価指標)となる数値目標は計画の進捗レベルを確認するための「道しるべ」の役割を果たし、さらに経営者の意志や考えを社内に浸透させる手段になっている。過去に関わった経営計画でも、売上、利益、客数などの数値目標を盛り込んできた。あのカルロス・ゴーン氏も、「ビジョンを社員に浸透させるのに重要なのは共通の言語。それが数字だと思っている」「共有できるわかりやすい目標が必要だ。それが数字である」と語っている。

ではなぜ、「無目標」にするのか?ソニーの吉田憲一郎社長は「(数値)目標を定めると成果にとらわれがちになる」とその理由を説明している。個人的にはこの考え方に共感を覚えた。ハイテク業界では特に経営環境の変化がより急速かつ複雑になっており、一旦定めた数値目標が時間の経過とともに現実離れしたものになる可能性は高い。上場企業といえども、数字に振り回されることで経営の自由度を低下させたくない・・・との思いが強かったと推察する。

「数字は一人歩きする」・・・これは私の持論である。時として数値目標は「目的」に変質しまい、経営目標の本来の趣旨から脱線した思考・行動の遠因となる場合がある。サラリーマン時代には、そのような経験を何度もした。そして、利益目標の悪い「目的化」が起こると、最悪の場合利益操作のための粉飾などの不祥事にもつながる。
数値目標はプロセスを経た後の結果であるものの、「目的」ではない。ゴーン氏の言葉を借りれば、「共通の言語」という「手段」である。経営の本来の目的は、企業の永続性、社員・顧客・取引先・地域社会等々ステークホルダーの幸福レベルの向上である。「共通言語」として必要な最低限の数値目標は定めるにしても、経営の柔軟性を確保するために、「ゆるい目標」を掲げることも、今後さらに必要になるかもしれない。