今年の春季労使交渉(春闘)における経営サイド(経団連)の基本スタンスは「最大の経営資源は人材で、残業時間規制だけではない、個人のやる気(エンゲージメント)や挑戦を後押しする処遇や働き方改革」(経団連・中西会長談)である。この方針のもともとの起点になったとされるのが、「日本の企業では『やる気がない社員』が71%」という調査結果だ。
この調査は米国の調査会社ギャラップ社が2017年に行ったもので、日本の企業で「熱意あふれる社員」はわずか6%しかおらず、1位のアメリカの30%に遠く及ばず、「やる気がない社員」が71%で、さらには周囲に不満をまき散らすような「無気力社員」が24%だという。そして調査対象の139の国のうち、日本は132位という、惨憺たる結果が出たという。
(参考:関連記事⇒ https://www.nikkei.com/article/DGXLZO16873820W7A520C1TJ1000/)
この調査会社の調査結果をどう解釈するかであるが、そもそも「やる気がない」という言葉の定義があいまいだ。より正確に表現すれば、「やる気がない」というより「仕事に前向きに取り組めていない」ということだと思う。かつてサラリーマンだった時の実体験も振り返ってみると、前向きに取り組めていないサラリーマンが多いのは確かに事実だと思う。
さて、なぜ社員は「やる気がない」のだろうか?個人的見解だが、その最大の原因は経営者と管理者にある。逆説的な問いになるが、「会社は『やる気がない』社員を採用したのか?」と聞いてみたい。新卒でも中途でも、入社時には程度の差はあれ期待とやる気をもっていたはずだ。やる気は、「ない」のではなく「なくさせられた」というのが実態だろう。139か国中132番目なのは、「社員のやる気」ではなく、むしろ「経営者と管理者の能力レベル」ではないのか。
「言うことをよく聞く」社員は上司の覚えが良く、結果的に出世していくという会社組織が多いのではないか?個性や独創的なアイディアよりも協調性がより重視されているのではないか?部下に権限と責任を的確に付与できている管理者はどれだけいるのだろうか?社長は社員一人一人と正面から向き合っているだろうか?
経団連は、年功型給与や終身雇用という従来型人事制度からの脱却を掲げているが、それで本当に「やる気が出る」のだろうか?能力に応じた報酬体系そのものはまあ良いとしても、1990年代後半から流行した「成果主義」がさまざまな弊害を生み出したという教訓が今回は活かされるのだろうか?報酬制度というものは、そう容易に変えられるものではない。それに、おカネで働いている社員は結局のところおカネで辞めると思われるが・・・。
年功制や終身雇用を継続していても、ES(従業員満足度)が高い企業は存在しており。むしろ年功制や終身雇用が社員の幸せにつながるという優良企業の経営者もいる。こうした点にも経営者が十分目配りできることが、「やる気がない社員」を増やさない最初の一歩だと思う。