前回に続き、生産性向上について取り上げたい。
労働生産性の算出式の「分母」である労働投入量を減らすことは必要であるが、単に労働の「量」を減らすだけでなく、「質」を高めることがより重要である。
■労働の「質」を高めるには?
サービス産業での労働の質を高める3つ切り口として、❶仕事の「見える化」、❷マルチタスク化、❸ベストプラクティスの共有、が考えられる。
❶仕事の「見える化」
サービスの特性の1つが「無形性」であるが、カタチがないが故に個々の仕事も必然的に見えにくくなる。仕事の中身を「見える化」するために、可能なものは数値化してもよい。たとえば接客対応の件数などは、結果的に業績にもつながるもので、接客スタッフにとってのKPIにもなる。仕事の成果の「見える化」はモチベーションの向上にもつながる。
❷マルチタスク化
サービスの「需要変動性」への柔軟な対応力を高めることができる。マルチタスク化で有名なのが、「星のや」などを運営する星野リゾートであり、オペレーションの生産性を高めることに寄与している。
❸ベストプラクティスの共有
他社から学べることは前向きに吸収するべきだ。同業者であっても商圏が異なり直接競合しないのであれば、お互いの仕事の進め方を相互に教え合えば良いし、場合によってはそれぞれの決算数値を開示し合っても良いだろう。
■「分子」への着目度が低い?
「働き方改革」で生産性を構成する「分母」を小さくすることが注目されがちで、「分子」である付加価値の引上げへの取り組みはまだ弱いと感じる。今後の大きな課題である。
サービス産業での付加価値引上げに向けては、❶顧客満足度(CS)の向上、❷サービスの有料化が必要である。
❶CSの向上
特にサービス産業においては、CSレベルの向上による顧客との良好な関係が顧客生涯価値(CLV)を向上に直結する。リッツカールトンは、CLVに注目してCS向上に取り組んでいることで知られている。従業員には「20万円の決裁権」を付与していることが有名で、自律的な「逆ピラミッド型組織が構築できていると言える。
❷サービスの有料化
日本では「サービスする」という語を「おまけする」と同義で使用する場面が多いが、これでは付加価値は向上しない。本来、ヒトが動いているのにタダというのは、経済合理性の視点ではあり得ない論理であるが、多くの日本人のサービスに対する意識にもやや問題がありそうだ。
すでに自動車ディーラーの一部では、洗車の有料化、車引取りの有料化などに取り組み始めている。客の観点から考えても、おカネを払わない無償サービスに対しては多少の気兼ねがあるはずで、特にロイヤルティーが高い優良顧客ほどその度合いが高いと推察できる。サービスの対価は、正々堂々と取れば良いと思う。
生産性向上は、従業員の処遇改善の原資を生み出し、処遇レベルの向上は結果的に離職率の低下、優秀な人材の採用に繋がる。「分母」と「分子」の両者に目配りしながら対応することは、当然容易ではないものの、「人手不足」が恒常化する中では、やるか、やらないかで企業間の格差はさらに広がる。もはや企業存続にとっての最重要課題だ。