新型コロナの感染拡大防止に向けて、政府の方針として不要不急の外出を控えるよう要請されている。その対応策の1つとして、事業者でのテレワーク導入も要請されている。
テレワークとは、「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語で、IT活用による場所・時間にとらわれない仕事形態である。要請を踏まえ、大企業を中心に、徐々にテレワークが浸透しつつある。他方で、中小企業ではさまざまな事情により、テレワーク導入は少数派だ。東京商工会議所が公表したテレワークの実施状況(参考 →https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1021763)では、すでに実施している事業者は全体の約1/4(26.0%)、実施検討中が約2割(19.5%)となっており、実施予定なしが過半数である。また、従業員数や業種によっても実施状況にかなりバラつきがある。従業員300名以上の事業者ではすでに半数以上が実施している一方で、従業員50名以下の実施率は14.4%である。また業種では、貿易業、情報週新業では半数以上が実施済みであるが、それ以外は2割~3割程度にとどまる。
■テレワークの何が問題か?
テレワーク導入を要請されたからといっても、中小企業では少なくとも短期的には導入することは難しいと思われる。前掲の公表資料によれば、テレワーク実施の課題として①社内体制の整備 ②ハードの整備 ③セキュリティ確保が挙げられている。在宅勤務に移行するにしても、労務管理や評価方法に見直し・変更、ITインフラの整備などは事前に十分な準備が必要であり、中小企業がいますぐに実行することは現実的ではなく、ムリをしてもメリットはあまりないと判断できる。
私自身も会社員時代に、首都圏に所在していた某大手企業の業務を松本市内の事務センターに移管し、リモート処理の仕組みづくりに関わった経験がある。この経験から言えることは、テレワークにおいても、ITインフラ整備、業務の仕組みづくりを推進できる人材の確保と十分な準備が必要ということだ。
■テレワークに関わらず業務の改善・革新は重要
コロナ対応とは、人的な接触を必要最低限に抑制することであり、したがって空間の隔たりを確保することが必要だ。短期的にテレワーク実施が難しいのであれば、時差出勤や交替勤務などが現実的な対応と言える。ただしその際にも重要なのは、今までの仕事のやり方を見直し、業務の改善や革新の余地を見出すことである。業務の廃止(必要性が低いものはやめる)、業務の簡素化(やめられなくても、簡素にする)、業務の標準化(ルーティン業務のマニュアル化やテンプレート整備)、さらに業務の移管(上述のようなアウトソーシング)などの可能性は追求したい。業務改善による省時間化の実現は、当面求められる就業時間短縮にとって確実に有用である。
■生産性向上のためのテレワーク
短期的な導入が難しくても、テレワークは生産性向上にも有効な手段であり、中長期的な視点で導入を前向きに検討すべきであろう。その際に必要になるであろう労務管理や評価方法の見直しにともない、人事制度の大幅な改定が必要になるかもしれない。さらに働き方の変革は、会社の「カタチ」を変革することになるかもしれない。
昨日の日経朝刊(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO58252910Q0A420C2MM8000/)で、日本電産の永守重信会長が「コロナ終息後は全く違った景色になる」と語っていたが、まったく同感だ。いま先を見すえて「コロナ危機」をチャンスに変える前向きな取り組みが求められていると思う。