緊急事態宣言はひとまず解除されたものの、新型コロナウィルスの今後の見通しは相変わらず不透明なままだが、「ポスト・コロナ」ではなく「ウィズ・コロナ」を前提にした経営戦略の模索も始まっている。
その際に重要なのは、自社の事業環境をどこまで冷静でかつ的確な分析をしているかである。昨日の日経朝刊では、星野リゾート代表の星野佳路氏のインタビュー記事が掲載されていたが、完全な「非対面型」が困難な宿泊サービス業における取り組みは、他業種にとっても多くのヒントが詰まっていると感じた。
■「インバウンドは市場の2割という事実」をみる
中国を起点に発生した新型コロナウィルスの拡大で、1月下旬ごろから訪日外国人旅行者の減少が顕在化し、日本政府観光局によれば4月の訪日外国人旅行者は前年同月比で99.9%減となり、インバウンド需要は完全に蒸発したと言える。しかしながら国内の観光市場をより冷静に捉えると、様相は少々異なるというのが、星野氏の指摘である。
「日本の観光市場は約26兆円あります。実は、そのうちインバウンドによる市場は約2割、4兆5000億円しかありません。残りの約8割は日本人による日本国内の観光です。逆に考えれば、仮に今後1年半、インバウンドによる需要がなくなったとしても、国内需要を伸ばせれば乗り切れる可能性があるということです。」(星野氏談)
下図(日経電子版より引用)の通り、訪日外国人旅行者による消費額は近年増加傾向にあったものの、たしかに市場全体の比率はそれほど高くはない。
また旅行のニーズも「きれいな景色が見たい」「アクティビティーを楽しみたい」から、自粛のストレスや恐怖感からの解放に変化していくと星野氏は分析している。
星野リゾートでも4~5月の需要は通常時比で8〜9割減というまさに「非常事態」にあるが、こうした冷静な事実認識は、的確な経営判断の必要要件だ。
■ビジネスモデル転換の成功確率を高めるには?
上記の事実認識にもとづき、星野リゾートでは「マイクロツーリズム」への対応を重点化するとのことであり、さらにその先のインバウンド復活も視野に入れている。同社の試行錯誤はしばらく続くであろうが、おそらく旅行のスタイルやニーズの変化に対応した施設運営やホスピタリティを確立し、いずれ業績を回復させるだろう。
そう判断できるのは、ターゲット顧客の再設定、そしてそのニーズを踏まえたサービスの変革というビジネスモデルの転換が、的確な事実認識というプロセスを踏まえて進められているからだ。
「正射必中」という語がある。正しい姿勢・動作で射られた矢は必ず的に的中するという意味である。さまざまな試行錯誤は当然必要なのだが、危機の中でもまずは自社を取り巻いている事実を的確に把握・分析する冷静さを持つことが最も大切ではないか。