前回ブログから、半沢直樹を中管理職職の役割という視点から評価しているが、残り3つ、プレーヤーおよび環境対応の役割はどうだろう。

❸コーディネーターの役割
中間管理職は、職場の代表として社内の他部門との関係を調整する立場にある。特に、部門間で利害が対立する場合、適切に調整することができなければ、自らの職場の仕事、さらには取引先にもさまざまな悪影響を及ぼす場合があり、リーダーとしての力量が問われる。
半沢は、航空会社再建案件において、前任であった審査部次長(曽根崎)からの円滑な引き継ぎに失敗している。重要案件への対応では、本来ならば前任部署やその担当者にも協力を得ながら対処するのがベターである。審査部出身の半沢の部下によれば、審査部には閉鎖的な組織風土があるとのことであったが、それを加味しても曽根崎の半沢に対する敵対心は尋常ではなく、上手く引き継ぎしたくてもできなかったというのが実情だと思われる。金融庁検査においても、審査部からの協力が得られず、検査官(黒崎)の追及に苦戦することになった。
そもそも東京中央銀行という組織自体が、派閥争いなど何かと問題をはらんでいることが容易に想像でき、部門間の連携がとりくにい組織と考えられ、組織内でのコーディネーターとしての役割が果たしづらい。他方で、債権放棄問題の対応において、社外との利害調整(=コーディネート)では優れた成果を残している。

❹プレイヤーとしての役割
中間管理職の多くは、プレイングマネージャーとして、現場での仕事とともに管理業務を担っている。しかし、中間管理職は単なるプレイヤーとしてそつなく仕事をこなすだけでは不十分であり、「管理職意識をもってプレイする」ことが求められる。具体的には、「この仕事はいったい誰に貢献するためのものなのか?」、「この仕事の管理上の留意点は何か?」、「この仕事に改善の余地はないか?」など、管理職としての視点から仕事への理解を深めることが求められている。
この点に関しては、半沢の働きぶりは合格だろう。バンカーとしての役割・使命を意識しながら職務に従事していることは、その言動から容易に理解できる。彼のバンカーとしての強烈な使命感は、実父が銀行の貸し剥がしで自殺に追い込まれた幼少時代の実体験が原点にあるように思える。

❺環境対応の役割
経営環境は企業活動に影響を及ぼすが、経営者だけでなく、中間管理職も自社および自身の職場に影響を及ぼす環境の変化を捉えることが求められる。社内だけでなく、外部環境の変化に対しても常にアンテナを張っておくことも必要である。
外部環境への対応としての社外との関係調整は、一種のコーディネートでもあるが、政府系金融機関の“鉄の女”との折衝や大手航空会社との再生計画策定の協議などで、半沢は十二分な働きを見せている。また東京セントラル証券時代には、通販サイト「コペルニクス」や「電脳電設」のスイッチングハブ技術の事業性を的確に捉えてM&Aを具現化しており、環境対応の役割に対する評価はほぼ100点満点だろう。

 

5つの視点から、中間管理職としての半沢直樹を評価してみたが、結論から言うと、彼は類まれなバンカーであり、中間管理職としてもきわめて優秀だと言える。“天敵”大和田取締役も「バンカーとしての実力は認めてやる!」というほどだ。
そんな優秀な人材でも、組織内の権力に抵抗するのは難しい。ドラマの最終回ではどうやら退職願を出すようだが、これ以上の理不尽を受容できないならば、銀行を辞めるのも優良な選択肢だ。これまで評価した彼の実力ならば、次の活躍の場は容易に見つかるだろう。