新型コロナウィルス収束の見通しは相変わらず不透明で、コロナによるさまざまな影響を考慮した経営戦略が多くの企業で策定され、すでに実行段階に移行していると思われる。他方で、財務的な余力がなくなったり、今後の将来展望が描けない企業の廃業、さらには倒産も増加している。コロナ対策のセイフティーネット保証を利用した金融機関借入などにより、一時的に資金繰りが落ち着いた企業でも、収益の低迷が続けばいずれ運転資金は底をつくわけで、これから年末にかけて資金繰りに行き詰まる企業がさらに増加することが懸念される。
こうした状況の中でも、新規開業を検討する動きは確実にある。一説には、不況の時ほど創業が増えるそうだが、不況をピンチではなくチャンスと解釈する起業家が存在するのは間違いない。

■なぜ不況なのに創業するのか?
そもそも創業の経緯はさまざまだが、不況時においては、企業の人員削減や倒産などにより失業する人は増加し、再就職も容易ではない。「しかたないから創業でも・・・」というパターンは増えると考えられる。
また、不況時には財政支出をともなう経済対策が政府によって実施されるが、事業者向けの補助金や助成金も拡充される場合が多い。実際、コロナの影響が深刻化した今春以降、2度にわたり政府の補正予算が組まれている。物議を醸し出した持続化給付金も含め、”大盤振る舞い”と言っても過言ではないほどの支援施策が打ち出されている。その中には創業者でも利用できる施策もあり、これをトリガーに創業を検討することはあり得るだろう。
さらに、「ピンチはチャンス」という前向きな発想を抱く起業家もいるだろう。特に、今回のコロナ禍では「新しい生活様式」が求められ、日々の生活や仕事において今までのやり方を変えざるを得ない場面が増えている。そこに新たなビジネスチャンスを見出し、新規事業を立ち上げるというパターンは当然あるだろう。今ではすっかり浸透しているAirbnb、Instagramなどの革新的なビジネスの誕生も、リーマンショック後であったことは周知の通りである。

■不況が創業や新規事業に有利に働く?
コロナ禍で大きな影響を受けているのが外食業界であるが、隣接する松本市の市街地でも空き店舗が目立ってきている。1年前には考えられなかったような優良物件の出物があり、こうした優良な空き店舗を狙って新規開店している飲食事業者もいる。おそらく家賃も、借り手優位で条件交渉できていると推測できる。さらに、ヒト不足だった飲食業界は、一転してヒト余りの状態になっており、優秀な人材の確保も比較的容易になっている。実際、私が関与している事業者が今月初旬に松本市内で飲食事業に新規参入したのは、まさにこのパターンである。

経営に関わる人材やさまざまな資源も、市場原理にもとづき需要-供給の関係に影響されるが、コロナ不況においては、人材と資源に関わる市場が買い手優位であることは間違いない。だから創業する・・・というのは短絡的だが、既存の企業とはことなり、創業はコロナを前提にした経営戦略や事業モデルを事前に検討することができるのは、たしかに利点だ。