「バレンタインディ」に関連して、2月から3月にかけて過去に何度かゴディバのチョコレートを購入した経験がある。仮に「義理チョコ」であっても、そのお返しは丁重にすることが大切だと個人的に思っており、松本パルコの店舗まで出向きネームバリューがある商品を頑張って入手していた。近年は家族の「プチ贅沢」として購入し、私自身も美味しくいただいている。

実はゴディバについては、チョコレート自体もさることながら、そのマーケティング戦略にかなり昔から注目していた。そのきっかけは、今から10年ほど前にはじまったコンビニエンスストア(CVS)での商品販売である。当時、某ビジネススクールのマーケティングのクラスに通学していた時期で、ケーススタディーでチャネル戦略について学んだこともあり、その記憶が鮮明に残っている。

「なぜラグジュアリーブランドがコンビニに?」
「コンビニなんかで売ったら、ブランドイメージが低下するのでは?」

というのが当初の率直な感想だった。
一般的なマーケティングミックスでは、高級ブランド品は、専門店など限定された経路(「専売的チャネル政策」)で販売されるべきと考えられている。実際、アパレルや宝飾品などのラグジュアリーブランドは、まさにこのやり方が広範に実行されている。高級感がある専門店で販売されれば、高級アパレルと同様に、ゴディバもブランドイメージは確実に高まるはずだ。他方で、店舗の敷居が高くなれば、気軽に購入しようという消費者はかなり少数になるだろう。ブランドイメージが高まれば、売上や利益は増加するのか・・・・・ビジネスの視点で考えると、ブランドイメージの向上は目的ではなく、収益向上にとっての手段であるはずだ。

この点について、ゴディバジャパンの社長であるJ.シュシャン氏がその著書でわかりやすく説いている。
贈り物として買う(あるいはもらう)ことはあっても、自分のために買っていた消費者は少数派・・・・・これがかつての販売の実態であった。ここで重要なのは、ゴディバが販売しているものは高額の宝飾品ではなく、チョコレートという食べ物だということだ。自分へのご褒美としてプチ贅沢のチョコレートを手軽に買いたい・・・・・このニーズに気づいたことで、CVSをチャネルに組み込んだのである。この時の戦略コンセプトが「アスピレーショナル(憧れ)&アクセシブル(行きやすい)を実現する」である。高級感と手軽さは、「or」ではなく「and」の関係にもなり得るのだ。

マーケティングミックスは、4Pの各要素の相性を考慮することが重要であるが、他方で4Pの組み合わせは、常に顧客視点で発想し、何がKBF(重要な購買要素)なのかを考えなければならない。プチ贅沢のチョコレートにおけるKBFは、「アクセシブル」だったのである。
ゴディバのマーケティング戦略は、奇策のようで実は正攻法であり、さまざまな場面で応用できるケースだと思う。