新型コロナウイルス感染拡大の収束見通しが不透明な状況が続いている。感染対策としてワクチン接種の進展が期待されているが、医療資源の不足、接種オペレーションの不備など問題が断続的に発生しており、「時間」が解決してくれると考える方が良いとも感じる。変異株の拡大を懸念され、先行きは見えにくい。
コロナに限った話ではないが、不透明な時こそ、歴史から学ぶ、先人から学ぶことは重要だ。そこからさまざまな教訓や知恵を吸引し、目の前の課題に対応するヒントにすることができる。
■「経営の神様」
こう呼ばれる人物としてまず思い浮かぶのが松下幸之助である。国内ではほかに本田宗一郎、盛田昭夫、現役では日本電産の永守重信会長、ソフトバンクの孫正義会長、ファーストリテイリングの柳井正社長もその呼称に相応しい。それでもその偉業と存在感では松下幸之助が「神様」に最適だろう。
バーバード大学の研究者がまとめた書著「幸之助論」は、「経営の神様」を学ぶ良書だ。自伝ではなく、海外の研究者のフィルターを通することで、「神様」の思想や行動を普遍的に解釈することを助けている。
■「神様」からの学び
松下幸之助の生い立ちに関する伝説は多々あるが、周知の通り「苦難」と「逆境」に象徴される。貧困、家族との死別、9歳での奉公・・・・・そんな中から夢を見出し、「神様」として人格や起業家精神が形成された。「ないないし尽くし」の起業の中で、目に見えない人間の潜在能力に着目しながら創意工夫を続けている。そして人間性を重んじ、自らが模範となることでリーダーシップを発揮している。また、他者の意見にも耳を傾けて衆知を尊重している点は、いわゆる日本的経営の原型とも言えよう。
その一方では、商機に果敢に挑戦するために、定石で判断すれば無謀と思えるような大胆な投資も実行し、経営規模を急速に拡大させている。
逆境をテコにして成長し続けることは、凡人にとって容易なことではないが、自らを省みて探求するマインドを持つ努力はできるのではないか。
■「水道哲学」の今
「あらゆる製品を水のように無尽蔵に安く生産する。これが実現できれば地上から貧困は撲滅される。」・・・・・有名な「水道哲学」である。
かつての松下電器は「マネシタ電器」とも称され、最先端の製品の開発~発売ではなく、既存製品を改良して廉価に販売する戦略を展開していた。ただしそこには、単なる安売りではなく、規模の経済に基づく合理性が存在しており、国内最大の販売店ネットワークを強みとして活かす戦略でもあった。
この「水道哲学」を現代で実践していると思えるのは、パナソニック(旧松下電器産業)ではなく、韓国のサムソン電子、中国のハイアール、台湾のファンドリーであるTSMC、国内ではアイリスオーヤマなどの新興メーカーである。
前掲書を読了した時、松下幸之助が今パナソニックの社長だったらどうするだろうか・・・・・と思いを巡らせた。