6月28日の日経朝刊に「中小M&A 仲介にルール」の見出しとともに中小M&A支援の現状と課題が取り上げられている。

この数年間で事業承継の問題はより広範に認知されてきており、親族内承継の限界からM&Aが事業承継にとっての有効な手段として定着しつつあると個人的に感じている。「乗っ取り」のようなM&Aに対するかつてのマイナスイメージも払拭されてきている。またコロナ禍の中で、廃業ではなく事業売却を模索する事業者、そしてコロナを事業拡大の好機と捉えて事業(企業)買収を積極化させている事業者が相当数存在しており、現在はM&Aの活況と言える。日経記事でも中小企業のM&A需要の拡大が指摘されている。
こうした中で、M&A支援事業者は増加傾向であり、日経記事によれば仲介業者数は国内で約370に達している。M&Aブームの中で、業界は「雨後のタケノコ」状態だが、こういう状況ではとかく粗悪な業者が増えがちだ。日経記事では、会計知識がほぼゼロなのに仲介できると言い張る業者も存在するとのことで、仲介サービスに対してマイナスイメージが広がることが危惧される。
またM&Aの仲介では情報の非対称性が大きく、常に利益相反に対する懸念が付きまとう。記事の中で大手業者が説明している仲介の有効性は確かに一理あるが、「誰にとっての利益を優先すべきか?」により、その見解は変わるだろう。
個人的には、最も優先されるべきは「売り手」の利益だと考えている。そもそもM&Aの起点は売り手であり、創業経営者の場合には特に会社・事業に対する思い入れが強く、経済合理性だけで割り切ることは難しい。信頼できるFAあるいはセカンドオピニオンがサポートするのが望ましいと思う。

私自身、会社員時代に在籍した3社のうち2社がM&Aの対象になった経験を持つ。1つは買収(親会社の変動)、もう1つは合併である。もう20年以上前になるが、会社で買収を主導していた上司が移動中の電車の中でつぶやいた言葉が今でも鮮明に記憶として残っている。

「買ってもらうまでは良かったが、買ってもらう相手を間違えた!」

売り手の経営者だけでなく、社員にとってもM&Aの成否で人生が変わる可能性がある。仲介業者は売り手・買い手からの「両手取引」のうまみに傾斜することがあってはならない。

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中小企業庁が4月に取りまとめた「中小M&A推進計画」では、健全なM&A市場の形成に有用と思われる施策が盛り込まれている。M&A支援機関の登録制度、自主規制団体の設置などが具体的にどのようなものになるのか今後注目したい。M&Aはその性質上、専門人材以外が複数回関わるのは僅少で、多くに経営者にとっては未経験でわかりにくい。間違ったM&Aをできる限り減らすことが、長期的にはM&A市場の健全な発展につながる。公正なルールの確立と浸透が、中小M&A支援事業者にとっての今後の岐路になりそうだ。