1948年11月4日に中小企業庁が「中小企業診断実施基本要領」を制定し、経営の専門家を活用する「中小企業診断制度」が発足したことにちなみ、11月4日は「中小企業診断士の日」に制定されている。これに関連する行事として「中小企業経営診断シンポジウム」が例年開催されている。メインイベントとして講演会が開催され、何度か聴講しているが、講師と講演内容が優良でかなりおススメだ。
今年は、ワークマン専務取締役の土屋哲雄氏の講演で、昨日リモートで視聴した。ワークマンは、その独特の経営スタイルと好調な業績が注目され、近年メディアで取り上げられる場面も多い。
■「しない経営」とは?
講演会のテーマは「しない経営」だったが、「しない経営」という表現には少し奇抜な印象も抱く。しかしその本質は、経営戦略の基本原則である「選択と集中」そのものだ。経営戦略とは「何をやらないか決めること」であるが、「しない経営」はど真ん中のストライクなのである。ワークマンは上場企業であるものの、実は従業員数が350名ほどで大企業というよりも中小企業に近い存在である。経営資源に制約がある中小企業では、得意分野に集中してその独自性を高めることが、戦略の王道だ。
では「何をしないか?」であるが、ワークマンの場合は「作業服以外はやらない」という戦略が明確である。話題となった「ワークマン女子」も、土屋氏によれば「客層を変えるために見せ方を変えただけ」とのことであり、作業服という事業領域からはみ出していない。
■経営者も「しない」
土屋氏の講演の中で特に興味深かったのは、「経営者は余計なことも『しない』」という話だった。
現場の社員はみんなまじめで勤勉
経営者はごく一部(たとえば日本電産の永守氏、ユニクロの柳井氏など)を除いて凡人
だから「社員中心」で現場に任せて、経営者はコーチに徹する方がうまく行くというのだ。この考え方は、”グーの音も出ない”ほど的確で、大いに賛同できる。
個人的な見解になるが、日本企業にとっての大きな優位性は、日本人の国民性にあると考えている。つまり大部分の日本人はまじめで勤勉であり、これは外国人との大きな差異性だ。それはコロナ感染拡大中、罰則がなくても街中で100人中ほぼ100人がマスクをしている「まじめさ」からも見てとれる。
■ライバルへの対抗策を練るしたたかさ
経営者は「しない」といっても、けっして怠惰でいるというわけではなく。ワークマンでは「Death by Amazon」をいかに回避するかをしたたかに研究している。価格設定とともに、リアル店舗のネットワークを強みとして活用する戦略を構想している。
余計なことは「しない」が、経営者として「する」と決めたことには集中するというのが「しない経営」なのだ。