コロナ禍の長期化や国際情勢の緊迫にともなうサプライチェーンの混乱、そこに追い打ちをかける円安の進行で、物価高が問題になっている。中国のゼロコロナ政策やウクライナ紛争などは日本にとっての外部環境であり、自国では制御不能の事象である一方、為替変動は経済政策に多分に影響される点で日本の内部事情とも言え、自国での制御はある程度可能である。日本の金融政策は当面現状維持が既定路線であり、物価高は中長期的に続くと考えるのが現実的だろう。
■賃上げの取り組み
そんな中で賃上げの議論が盛んになっている。物価上昇に対してそれに見合う所得増加がなければ、家計は窮乏するわけで、政治的にも喫緊の課題だろう。岸田政権の以前から政治主導の賃上げが中小企業施策にも反映されており、たとえば「ものづくり補助金」は生産性向上による賃上げが申請の要件とされている。この要件そのものは合理的だと思う。今後の中小企業施策では、さらに賃上げに対するインセンティブが盛り込まれる場面が増えそうだ。
また企業側でも、このところ一部で「インフレ手当」を支給する動きがあり、大手企業を中心に支給の波が拡大するかもしれない。
■先行している「働き方改革」
賃上げと並んだ処遇改善として数年前から「働き方改革」が各企業に求められている。働き方改革の解釈はさまざまであるが、厚生労働省によれば「働く人々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で『選択』できるようにするための改革」と定義されている。一般的な取り組みとしては、長時間労働の是正、非正規雇用労働者の処遇改善などである。2019年4月からは、年5日以上の有給休暇取得が実質的に義務化され、これもその一環である。有休取得を義務化する趣旨はやや不可解だが、有休を取りずらい職場環境(上司の理解、社内の雰囲気なども含む)の改善がまず必要だろう。
長時間労働の抑止は、心身の健康維持とともに前向きなリスキリングの促進にも有用である。ただし単に労働時間を短くするだけでは不十分であり、前提として業務改善などをともなう生産性向上が必要であり、さらに働く側の意識改革も不可欠である。
■残された課題は「働きがい改革」
そんな中で、人事施策において個人的に強く感じているのは「働きがい改革」の必要性である。以前「『やる気がない社員』が71%」という調査結果に関わるブログ記事をアップしたことがあるが、賃上げや長時間労働是正だけでは、「やる気」を醸成することはできない。
次回に続く。