昨年末から縁あって「貞観政要」を学んでいる。今から1400年ほど前の中国唐代の君主「太宗」とその臣下とのやり取りが編纂された古典であり、かつては鎌倉幕府で執権を担った北条氏、さらには徳川家康も本書を愛読したと言われている。

貞観政要については、その詳細まではよく知らなかったのだが、以前から存在は知っていて、いつかは読んでみたいと思っていた。「帝王学の教科書」とも称されているが、政治とはほぼ無縁な経営コンサルタントにとっても学ぶべき部分が多いのでは・・・と思ったのが、学び始めたきっかけだ。実際に貞観政要を読んでみると、君主が国を治めるためのあるべき姿・心構えが多面的に記されているのだが、君主を経営者あるいは管理職、国を会社組織と置き換えてみると、実は経営に関する書だと解釈することができる。
もともと中国の古典は、教育を受けた王族や政治に関わる官職を対象として書かれているものが多く、内容はどちらかというと難しい。貞観政要でもその記述から多様な解釈ができるため、理解するのは簡単とは言えない。そんな中で、今一番に気になっているのが次の文言だ。

君は舟なり、人は水なり。水はよく舟を載せ、またよく舟を覆す。

水(=国民)に浮かんでいるのが舟(=君主)であり、水面が穏やかであれば舟は安定するが、浪立てば不安定になり、場合によっては転覆してしまう。

帆船

実際の政治の世界でも、支持率が高いレベルで安定していれば長期政権を維持し、国民が不満を抱き波風が立って支持率が低下すれば、首相交代、さらには政権交代という事態が生じている。今の岸田内閣は支持率があまり良くないようだが、さてこの先どうなるのか・・・。

さて、企業経営についてであるが、舟を経営者(あるいは管理職)、水を従業員と解釈してもよさそうだ。経営者の方針や姿勢が従業員から賛同され、社内が協力的な雰囲気になっていれば、当然従業員は良い仕事をするし、会社の業績も良化するだろう。逆に、従業員が反発すれば、業績悪化、さらには従業員の退職という事態に陥るだろう。
また少し見方を変えてみると、国民を選ぶことができない君主(あるいは政治家)とは異なり、会社の社長には従業員を選ぶ(=採用・配置する)権限がある。さらに、従業員への指導・教育を通して、会社に相応しい人材に変えていくことも可能だ。有名な例では、故・稲盛和夫さんが京セラで実践した「フィロソフィー」の浸透だ。経営者とは、水を選び、水を変えることができる舟だと言える。

企業経営において、水にうまく載ることがてきる舟は、いったいどれだけあるのだろうか?