グーグルなどGAFAを中心とする米国のIT企業では、このところ人員削減が相次いでいる。
4月14日の日経朝刊では「米テック大量解雇の波紋」として、IT企業の良好だった労使関係が転機を迎えているとの記事が掲載されている。

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これまで長期にわたり高成長を続けてきたグーグルは、高報酬とともに無料の飲食サービスに象徴される手厚い福利厚生で働き手にとっての「楽園」を整備して優秀なエンジニアを広範に吸引し、OKR(目標管理手法の一種)で高いパフォーマンスを引き出してきていた。良好な労使関係の構築は好業績をもたらし、その果実は従業員に再び還元されるという好循環が成立し、これが「勝ち組」のモデルと評されてきた。米国内のIT企業に留まらず、日本国内でも模倣の対象とされている。
しかし、GAFAの好業績にとって追い風であった経済環境が変化し、業績が頭落ちになる中で、2023年に入り、グーグルも10,000人超の人員削減に着手している。

■好循環の「歯車」が逆回転
高成長による企業規模の拡大は、時として人員や資産の増加にともなう固定費の上昇につながる。収益が順調に伸長している時には固定費を十分に賄えるが、収益の伸びが鈍り、さらに低落に転じると高水準の固定費が財務上の負担に変わる。こうなると、従業員によっての「楽園」の前提であった好循環の歯車は狂い、逆回転し始める。つまり、収益の低迷で賄えなくなった固定費を削減せざるを得ず、人員削減がその手段となる。雇用の維持が優先される日本とは異なり、米国ではレイオフ(一時的な解雇)はしばしば行われる。日本以上にアクティビスト(もの言う株主)からの圧力が強い米国では、業績の悪化は、レイオフ、さらには経営者交代に直結しやすい。株主に過度に傾斜する資本主義もどうなのか・・・・・と大いに疑問を感じる。

■より大きな問題は労使関係の変質
「『次は自分ではないか』。米グーグルで働く多くの従業員はいま、こんな恐怖を感じながら働いている」と日経記事で紹介されている。快適な「楽園」は終わり、職場環境はまるで厳しい冬に一転したような状況だと容易に想像できる。
より深刻と思われるのは、人員削減と労使関係の変質が長期的にマイナスの影響を及ぼす可能性だ。日経記事では、レイオフの「隠れたコスト」を指摘している。つまり、会社に残留する社員も、自身が退職しなかったことを否定的に解釈してマイナスの感情を抱き、精神的な不安や罪悪感に悩まされるというのだ。「残留社員は仕事への意欲をそがれ、生産性が低下する」(ハーバード大経営大学院S・サッチャー教授)とされている。人員削減で一時的に固定費を削減できても、長期的に収益回復が遅れれば、さらなるレイオフという事態も考えられる。そうなると縮小均衡の悪循環に陥る。

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■バブル終焉後の日本も同じ?
日経記事では「経済環境が改善し、新たな事業を育成できれば高い成長力を取り戻す可能性もあるが、揺らいだ信頼の回復は容易ではない」と締めくくられている。
この記事で連想したのは、1990年代のバブル終焉後にリストラがおこなわれた日本の企業と経済についてだ。当時は、雇用、設備、負債の「3つの過剰」と言われ、その解消のためのリストラで有効な手段とされた。たしかにミクロレベルでは固定費削減に直結し、企業業績の回復は進んだが、マクロレベルではその後国内産業の生産性低迷と国際競争力低下で低成長が恒常化している。今や「失われた30年」だ。
「日本型雇用」のメリット・デメリットはこれまでもさまざまな指摘がされているが、労使協調により構築された信頼関係は日本企業さらには、その総体としての日本経済にとっての強みだったと言える。リストラにより労使関係が棄損したとすれば、企業活動にとって重要な従業員の「やる気」にマイナスの影響を及ぼした可能性は高いと思われる。
今さらではあるが、バブル後のリストラは、30年後の日本経済にとっても深い傷として残っているような気がする。