戦略に関わる著書は世の中に無数に存在しているが、その中で最も有名なものが「孫子」である。
孫子は、紀元前500年ごろ(春秋戦国時代)に軍事思想家の孫武によって著された兵法書と言われているが、諸説さまざまであり実際のところは不明である。
孫子は、三国志に登場する英傑すべてが読んでいたと言われている。その中でも魏の曹操は、孫子の複数のテキストを校勘しながら、孫子の底本を作成してとされている。
■孫子の兵法とは?
孫子の中には数々の名言が残されている。たとえば「百戦百勝は善の善なるものに非ず」もその1つ。百戦百勝は最善ではなく、戦わずして敵を降伏させるのが最善というのである。実際には、言うは易く行うは難しであるものの、勝つことよりも戦わない方が賢明という場面がビジネスの世界でもしばしば遭遇する。中小企業の独自性追求による市場でのすみ分けはそれに当てはまり、さらにはM&A(=戦わないで買ってしまう)も兵法の応用とも言えるそうだ。
では、なぜ戦わないのがベターなのか?それは、全体を大局的な視点で俯瞰することが重要だからである。つまり、仮に目の前の相手に勝ったとして戦力は消耗するわけで、次の戦いでは勝つことがより難しくなる。目の前の相手だけでなく、ほかの潜在的なライバルとの関係性を的確に理解しなければ、生き残れないという教えである。孫子には、勝ち、負けとともに「不敗」という考え方があり、これが大きな特徴と言われている。
■もう一つの戦略論・・・クラウゼヴィッツの戦略
実は戦略に関わるもう一つの大著がある。プロイセン(ドイツ)の軍人であるクラウゼヴィッツが著した「戦争論」である。
何が違うのか?孫子は「ライバルは多数」を戦略の前提としているのに対して、戦争論は「一対一」を前提としている。つまり白黒をはっきりさせるために相手を打ち負かすことを主眼に置いている。したがって、ここで重要視されるのは、戦力(物量)の大きさであり、相手よりも戦力で勝ることが目標となる。つまり、大局的な視点よりも、戦力という本質が重視される。
戦略では大局的視点も本質追求も大切ということであるが、どちらがより重要なのだろうか?
(次回に続く)