AIが広範に普及しつつある中では当然のことながらデジタルは必要だが、それが偏重になると模倣困難性と差別的優位性を確立~維持できなくなるのでは・・・と問題提起した。

■ではアナログとは?
デジタルの対義語にあたるので、定性的、模倣が困難(=コピペしにくい、されにくい)ということになる。人的なスキルとしては職人技、さらには暗黙知とも換言できる。これは、相応の時間を費やした中で積み重ねてきた知見や経験が基盤となる。模倣困難な技術やノウハウというアナログが、他社に対する差別化、さらには価格競争に対する防御壁の機能も果たしうる。
経営環境の変動スピードが速く、振れ幅が大きい昨今では、時間をかけずに手っ取り早く成果を生み出す効率性がとかく優先され、時間をかけた積み重ねは軽視されがちであると感じる。

人間とAIとのコラボレーションを想像させる

■AIが出す正解がヒトにとって「しっくりくる答え」とは限らない
抽象的な話になるが、日頃関わる仕事は基本的に人間を相手にしたものである。だからこそ、人間性を度外視した仕事はあり得ない。
人間は理性と感性を持っているが、AIで出す合理的な正解は、理性では受け入れられるが、感性では受け入れにくいという場面がある。「たしかにそうだけど、でも何となくしっくりこない」という感覚を想像すれば良い。
将棋を例に話を進めるが、現在のAIにトップレベルのプロ棋士が勝つ可能性はかなり低い。プロの対局でもAIの形勢判断が広範に利用され、AIが出した最善手を継続すれば確実に勝利できる。しかし対局中のプロ棋士はAIを利用できない(反則)わけで、自らの大局観や棋風をもとに最善であろう手を考え続ける。1つの差し手を2時間以上考える場合もある。この考え抜いたプロ棋士の差し手はまさにアナログである。攻めの棋風であれば攻めの手、受けの棋風であれば受けの手が選択されるかもしれない。その差し手はAIが出す正解とは異なるかもしれないが、本人にとっては「しっくりくる答え」なのである。人間であるプロ棋士のアナログの差し手にオリジナリティーがあるからこそ、対局に引き込まれ、その棋風にひかれて多くのファンが付く。AI同士の対決には感動しない。
最近では、採用にもAIが活用されているようであるが、人間の先入観や偏見を排除できるAIによる選考は一定の効果がありそうだが、過度な依存はリスクが大きいと感じる。それは、「この人と仕事をしたい」という人間としてごく普通に抱く感覚が考慮されないからだ。人間的な魅力という数字には置き換えられないアナログの要素が組織に良好な影響を及ぼすことはかなりある。

■中小企業でこそアナログが重要
人員不足が深刻化する中で、定型業務ではもはやITやロボット活用は必要不可欠であり、その取り組みができない中小・小規模事業者はさらに苦境に陥ると思われる。この領域でのデジタルは必須であるが、その一方で他社とは異なる自社らしさを発揮することが求められる中小企業において、どの領域でアナログの要素を残して活用できるのかを探求することが重要ではないか。そこが本当の「強み」になるはずである。